1、勇者、旅に出る。 ヒロイン、颯爽と登場。




 









2、勇者、行き倒れる。




 
3、勇者、魔法使いに殴られる。 or 勇者、噛み付く。




 
4、勇者、キノコを食べる。




 
5、勇者、怒る。  
よっけいなことは言わんでよろしいッ!!




 
6、勇者、タンスを漁る。  
これが勇者の醍醐味でしょう。




 
7、勇者、人を救う。  
あたしは無報酬の仕事なんか請けませんからね!!




 
8、勇者、手に入れる。




 
9、勇者、魔王を脅す。  
だってぜったい変じゃない。




 
10、勇者、平和をもたら……した?




 
11、魔法使い、気に入られる。




 
12、魔法使い、魔法を使う。




 
13、魔法使い、勇者に一撃。  
結局、男って胸が重要なんですね……がっかりです。




 
14、魔法使い、酔っ払う。




 
15、魔法使い、笑う。




 
16、魔法使い、一服盛られる。  
私は旅になんか出たくありませんてばあ!!




 
17、魔法使い、世話を焼く。




 
18、魔法使い、わがままを言う。




 
19、魔法使い、魔王に捕まる。  
人生にはスパイスが必要。そうでしょ?




 
20、魔法使い、同情される。  
あんなんでも師匠ですから。




 
21、魔王、暇になる。




 
22、魔王、掃除する。




 
23、魔王、ケーキを焼く。  
退治するのが人のため?




 
24、魔王、眠くなる。




 
25、魔王、泣き真似をする。




 
26、魔王、はじめてのおつかい。




 
27、魔王、花を育てる。




 







28、魔王、家出する。  
勇者を求めて三千里





 花の時期も終わった魔王城で、魔王は集めた手下共を前に宣言した。
「このよき日、ついに我は家出をする!」
 その宣言に手下の魔物たちがおおっと声を洩らした。感嘆、驚き、そして不安。その声は幾重にも重なり、蜘蛛の巣だらけの城を震わせた。
 その不安は、魔王が迷子になるんじゃないかとか、うっかり怪我をして泣いたりするんじゃないかとか、町で悪い人間に騙されて借金を負ってしまったり、見世物に売られてしまったり、あまつさえ好事家に買われたりしたらどうしようという不安だったのだが、幸か不幸か魔王は気付かなかった。
 これでも魔物たちには大変愛されている魔王なのである。さっそく配下の中でも優秀な者たちが家出演説をする魔王の下でこそこそと寄り集まり『影から魔王を守る委員会』と『初めての家出をこっそり記録し、広める会』を即座に発足し、鼻高々で家出を宣言した魔王の下、やはりこそこそと投票の結果、大多数の賛成をもって瞬時に可決した。ちなみに反対派は一匹たりとも居なかった事をここに付け加えておきたい。
 これで魔王がどこに行っても大丈夫である。魔物たちはほっと胸を撫で下ろし、今度こそ温かい目を魔王に向けた。旅は少年を成長させる薬である。もちろんその薬は何百年と生きた魔王にも有効に違いない。
 またひとつ、我らの王は大きくなられる……!
 まだ旅立ってもいないのに、老齢の魔物などは涙を堪える始末であった。
「我がいないあいだ、皆には苦労をかけるが、これまでどおりに営業努力とスマイルを忘れず、魔物として、魔王の配下として、立派に人間共を脅かすのだぞ……!」
 手下達の気遣いを知らないまま、魔王は彼らを励まし、まだ太陽の沈まないうちに城を出て、三歩目で小石に躓き、勢いよく顔から地面に突っ込んだ。
「あうっ」
 なんとか起き上がり、高い鼻梁を撫でさすって痛みを誤魔化す。
「痛くないのだ。これくらい、なんともないのだー」
 自分に言い聞かせるが、痛みを我慢している目にはうっすら涙が滲んでいる。うう、と唸って魔王はなんとか立ち上がる。身体についた土埃を払う事も思いつかないまま、拳を握って「我は勇者に逢うのだ!」と自らを鼓舞。木の陰城の入り口から魔王の様子を見ていた『初めての家出をこっそり記録し、広める会』メンバーの魔物たちはその宣言に「おおっ」と息を呑む。
「魔王さま、素晴らしいですっ」
「頑張ってください、魔王さま!」
「ごーごー勇者、イケイケ魔王さまじゃっ」
 しかし声援はあくまでこっそりと。その様子を記録係が使い古しのチラシの裏に書きとどめていく。後々これは魔王さま行幸記として全大陸中の魔物達に広めなくてはいけない。
「首を洗って待っているがいい、勇者よ! いま我が迎えに行くからなー!」
 そう言いながら魔王は町へ駆け出した。城の入り口から手近な木陰へ、また魔王の側へと魔物たちが移動する。これが世に言うところの魔王さま珍道中の始まりであった。

















29、魔王、恋に落ちる。  
魔王、恋に恋する自覚編




 はぁ、と自分が零した切ない溜息にぎょっとして、魔王の玉座の上で彼は飛び上がった。
 魔王の玉座の上に居るんだからもちろん彼は魔王であった。
 天然パーマの金の髪、不健康な白い肌、切れ長の目の奥には鋭い藍の瞳。すっと通った鼻梁に酷薄そうな赤く薄い唇。例えば蝙蝠の羽がついているとか鬼の角が生えているとか悪魔の尻尾が生えているとかそういうオプションは一切なし。一見すると黒いローブを着た美形のあんちゃん以外のなにものでもないがそれでも彼は魔王なのだ。魔王なんだってば。
「ああ……」
 思わず呟いてしまった自分の声にもう一度尻で飛び上がる。それから「やはりこれではダメだ!」と叫んで立ち上がった。
「ああ!」
 ロミオとジュリエットでも読んでしまったのかと問いたくなるような大仰な仕草で彼は言葉を続けた。
「我の勇者よ! いつになったらそなたは我を倒しに来るのだ!」
 ずっと待っているのである。
 魔王を退治するために一番初めの勇者が旅立ってからずっと。ずっと。ずーーーーっと。
 その間に勇者は魔王退治の旅から脱線し、代替わりし、また脱線し、と……何百年待っても勇者は彼の元には現れない。
 こちとらドキワクな胸のトキメキをこらえて勇者の訪れを待っているというのに!
「何だ。なにが足りない。何故勇者は我の元に来ないのだ?!」
 勇者が来たくなるよう、配下の魔物たちには人間のところに行って暴れて来いと命じている。もちろん、誰かを怪我させるなんてことはご法度だ、何か壊したらちゃんと修理してから戻ってこいとも。いかにも魔王らしく山の上にあるおどろおどろしい城を借りて(今年もちゃんと固定資産税は払いました)山に住んでいる蜘蛛に頭を下げ城中に蜘蛛の巣を張ってもらった、山の動物たちに頼んで城の中を歩き回ってもらい床も壁も天井も土埃に塗れさせておいた。城の要所要所に勇者が喜びそうな宝箱だって置いておいたし、勇者のために中身は役立つものにしておいた。代替わりするたびになにがいいかなと考えるのは楽しくて、しかし購入には金がかかって大変なんだぞ、勇者よ。もちろん紛らわしくミミックも混ぜておくのも忘れない。ふふふ、引っかかって驚くがいい、勇者よ! 近くの村の花屋で薔薇の苗木を買って、植木屋に手入れを教わって、城中に植えてみたりしたから茨の演出はばっちりだ……花の時期になると赤や黄色や白い薔薇が城一面を包んでそのときだけは暗雲垂れ込めていそうな城が華やかに見え、魔王の荒んだ心がちょっと和む。じつは近隣住人の皆さんの心も和ませている。彼の城の薔薇を恋人同士で摘んでくると永遠の愛を手に入れられるんだとか、この薔薇を摘んで好きな人に告白すると失敗しないとか、そんな噂には事欠かない。
 そうだ。こんなにたくさんの噂だってある。それなのに。
 こんなに準備万端整えて、長い出張から帰ってくる夫を待つ妻よろしく慎ましく待っているというのに……!
「いや待て、その喩えはおかしいな」
 呟いて、はっと彼は動きを止めた。
「違う、今までの我が間違っていたのだ……!」
 カッと目を見開いた。
 なんで勇者ひとりのために頼まれもしていないのに自分がこんなに苦労しなきゃいけない? こんな空回り、まるでそれは。
「我は勇者にK・O・Iしているのだ……!」


 魔王様、 開 眼 。


 ……しなくてもいい方向へ。

















30、魔王、世界を襲ってみる。  
魔王は悪の国王と戦うのだ!!




「勇者が我の元に来るためにはなにが必要か書き出してみよう」
 今日も今日とて魔王は彼専用の玉座に座り、羽ペンを持って、邪魔な髪は手近なゴムで括り、うんうん唸りながら一枚の紙を見つめた。
 紙は真っ白だ。
 だって思いつくこと全てやってしまっているのだ。魔物に人を襲わせているし、城はそれっぽくわかりやすくしているし、永遠の愛が手に入るなんて誰も確かめようのない悪い噂だってたくさんたくさん流れている。
「そうだ」
 ことりとペンを脇に置き、彼は立ち上がった。
 立ち上がりついでに真っ白な紙を握りしめて――――「いかん、紙がもったいない」と言いながら、つけてしまった皺を手で伸ばして戻した。
 このご時勢、魔王をやっていくのも大変なのだ。なにせ国王に毎年税金を納めなくてはいけない。魔王をするためにはもちろん配下が必要だ。そうして魔物達を集めたら企業認定されてしまったのだ。魔王たるもの陰でこそこそするわけには行かない。堂々と胸を張って申請したら企業税を払わなくてはいけないことになってしまった。それに城の固定資産税に配下の魔物達を含めた労災に健康保険に厚生年金に介護保険までも!
 そう、それが大きな間違いだ。
 魔王が人間に税を納めているなんて。
 自分は魔王だ。人間じゃない。欲しいものは奪い取る。納めたくない税金は納めない。わがまま放題で許されるのが魔王の特権じゃないのか。このままではいけない。国王に頭を垂れるなぞ、魔王の本質から外れている。魔王たるもの、国王を倒し世界を征服しなくては。
「そうしたらこれから……」
 踏み倒した分のお金で勇者のために花でも摘んでいこうか。いや、それは自分の城から摘めばいいな。なにせ自分の城の薔薇にはそれを積んで告白すれば失敗しないと言う噂があるのだから。
 そしたら今度はふたりで摘みに来よう、そうしよう。いや待て、その頃にはふたり一緒にここで暮らすんだから……。
 うきうきむふふな妄想にしばらく思考を遊ばせ、「よし、やるぞ!」と彼は拳を高々と突き上げると、紙に《今年の目標 打倒国王!!》と、でかでかと書いて玉座の後ろの壁に貼り付けた。
 
 別に、今年度は資金繰りが難しくて税金を納めるのが難しいから踏み倒そうとか、そんな不埒で矮小なことを考えているわけでは一切ないぞ! ないからな?!










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